マイバッグの歴史は繰り返す?
―「持っていくこと」が“新しい常識”になった時代に
① はじめに:マイバッグが「当たり前」になった今
レジ袋が有料化されてから、私たちの買い物風景は大きく変わりました。
スーパーやコンビニでの「袋はご利用ですか?」という質問に、当たり前のように「マイバッグあります」と答える――いまや多くの人にとって、そんなやり取りが日常の一部となっています。
ちょっと前までは、買った商品は当然のようにレジ袋に入れてもらうものでした。ところが環境問題やゴミの削減が叫ばれるようになり、「自分の袋を持っていく」という行動が一気に市民権を得るようになりました。
しかし、この「マイバッグ文化」は本当に“新しい常識”なのでしょうか?
実は、日本にはかつて「マイバッグ」ならぬ“持参文化”が根付いていた時代があったのです。
② かつての買い物風景|“マイバッグ”が常識だった時代
今から50年ほど前、つまり昭和30~40年代の日本では、買い物に出かけるときに「何かを持っていく」のはごく自然なことでした。
商店街の八百屋、魚屋、豆腐屋、そして町の市場では、ビニール袋どころかプラスチック製品すら一般的ではありませんでした。
おばあちゃんが使っていた“買い物カゴ”を覚えていますか?竹や籐で編まれた丈夫なカゴ。風呂敷で包んだ野菜や魚、豆腐の入った鍋をそのまま持ち帰る姿も珍しくありませんでした。
豆腐は鍋を持って買いに行き、米は米びつを持参して量り売りで購入。量販パックやレトルトなどなかった時代は、必ず“容器を持っていく”必要があったのです。包装紙も再利用が当たり前。お菓子屋さんでは「包み紙を取っておいてまた来てね」と言われることもありました。
つまり、現代の「マイバッグ文化」は、一周回って“昔の常識”に戻ってきたとも言えるのです。
③ レジ袋の登場と拡大|いつから「使い捨て」が当たり前に?
では、いつから「もらうのが当たり前」になったのでしょうか?
1970年代後半、プラスチック製のレジ袋が日本に本格的に導入され始めます。特にスーパーマーケットの普及とセットで拡大しました。それまでは紙袋や新聞紙での簡易包装が主流だったのが、ビニール袋が登場することで一気に利便性が向上しました。
水に強くて、安くて、軽い――レジ袋はたしかに“夢のようなアイテム”だったのです。
1980年代に入るとスーパーマーケットやチェーン型コンビニが全国に広がり、それに伴ってレジ袋の無償提供が当たり前となっていきます。やがて、「買い物には袋がついてくる」という意識がすり込まれ、持参する文化は影を潜めていきました。
この時期、日本全体が「大量生産・大量消費」へとシフトしていったことも大きな背景にあります。便利さと引き換えに、私たちは“使い捨て”の文化を手に入れたのです。
④ 再びマイバッグの時代へ|背景にある“環境”と“コスト”
しかし、時代は再び転換点を迎えます。
2020年7月、日本ではプラスチック製買い物袋の有料化が法律で義務づけられました。これは環境省が主導するプラスチックごみ削減の一環であり、海洋汚染・マイクロプラスチック問題・SDGs(持続可能な開発目標)への対応として打ち出されたものでした。
当初は「たった3円、5円の袋が有料に?」と戸惑いの声も上がりましたが、数年がたった今、消費者の行動は明らかに変わりました。レジ袋を「断る」ことが当たり前になり、コンビニでサッとマイバッグを取り出す姿は珍しくありません。
レジ袋の有料化には、単に環境問題だけでなく「企業側のコスト削減」という経済的な動機も含まれています。無料で提供し続けるには、年間数百万円単位のコストが発生することもあるからです。
⑤ なぜ「持参する文化」は繰り返されるのか?
歴史を振り返ると、「モノを持って買い物に行く」スタイルは決して新しいものではありません。
むしろ、昭和の人々が実践していた「必要なものを、必要な分だけ、無駄なく使う」という暮らし方こそ、サステナブルな社会に近い生き方だったのかもしれません。
現代人がマイバッグを持つ理由は、主に以下の3つに集約されます。
-
① 経済的合理性(袋代を払わずに済む)
-
② 環境への配慮(プラスチック削減)
-
③ ライフスタイルの一部(ファッション・自己表現)
これらは、かつての「生活の知恵」や「地域コミュニティの一員としての責任」ともつながっています。
持参するという行動は、単なるエコではなく、自分の生活に対する“意識の現れ”なのです。
⑥ おわりに:持ち帰るのは「モノ」だけじゃない
買い物を通じて手に入れるのは、モノだけではありません。
そのときの行動や選択の中に、価値観や文化が刻まれていきます。
「便利だから」「当たり前だから」と何気なく使っていたレジ袋。
それが有料になり、当たり前を見直す機会となりました。
そして今、マイバッグを持つことが“新しい常識”とされている――けれど、その本質は“昔に戻った”だけかもしれません。
生活様式は時代とともに変わっても、人が大切にしている価値観は意外と変わらないもの。
マイバッグの中には、エコだけでなく、どこか懐かしい「暮らしの原点」が詰まっているのかもしれません。